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文部科学省の全国学力テストを検証した目次  
2007.10.25 (Thu)
文部科学省による「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の結果報告について、
エントリー4つにわたる記事を書いています。

うーん、実に長ったらしくなってしまった・・・。

OECDの国際テストからの、ゆとり教育での学力低下論争があって、
文科省の報告も、あきらかにそれを意識したものになっているように感じます。

興味がある方はどうぞご覧ください。


文部科学省の全国学力テストを検証する1
  ◆「知識」よりも「活用」に課題?
文部科学省の全国学力テストを検証する2
  ◆出題者の趣旨は設問に正しく反映されているか
文部科学省の全国学力テストを検証する3
  ◆クロス集計の結果がいいように利用されそうな懸念
文部科学省の全国学力テストを検証する4
  ◆全数調査を目指す意味は?
  ◆今回の調査で見えた良い側面



 参考
平成19年度全国学力・学習状況調査 調査結果について
(国立教育政策研究所)
「知識定着」「応用弱い」 全国学力テストの結果公表 (iza)
<学力テスト>経済格差も影響 最上位・秋田 最下位・沖縄 (エキサイトニュース)
全国学力テスト:全国平均下回る 道内公立の小6・中3、家庭学習少なく /北海道(毎日jp)
[学力テスト]学力向上 見えぬ具体策 (livedoorニュース)
【主張】全国学力テスト 競争封ぜず学力の向上を (iza)
学力テストの結果に思う (fujitakaのぼちぼちコラム)
全国学力調査の都道府県別ランキングをまとめてみる (木走日記)




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文部科学省の全国学力テストを検証する4  
2007.10.25 (Thu)
◆全数調査を目指す意味は?


今回の調査報告を見て思ったのは、サンプル抽出調査ではいけないのか?ということ。

膨大なデータを抱えて分析・報告を予定より遅らせ、
77億円という予算を投じてまで、
あえて全員参加を目指すことにどれだけのメリットがあるのかというのがよくわからない。

これを毎年4月に実施し、毎年10月も末になって結果を返されて、
「さあ有効利用しろ」と言われるのだとしたら、
現場の学校サイドにも不満が溜まらないほうがおかしい。


◆今回の調査で見えた良い側面


疲れたのでサッといきます。

・都道府県による成績のばらつきが小さい
・都道府県内での都市規模等によるばらつきが小さい
・中学生で国語好きの生徒の割合が増えている
・算数(数学)好きの生徒の割合が増えている
・国数いずれも、勉強が役に立つと思う生徒の割合が増えている
・生徒の学習時間、読書時間も増加傾向

よかったよかった。

しかし、ばらつきが小さいとはいえ、
我らが北海道は、正答率が全ての科目で全国平均以下という結果…。
まあ、伸びしろがあると考えましょう。


最後になりましたが、大変な時間と労力を費やして
本調査の実施、結果の集計・分析を行われた文部科学省のみなさま、
及び受託業者のみなさま、本当にお疲れ様でした。

この長たらしいエントリーを最初から読んでいただけた方にも
大変感謝いたします。お疲れ様でした!


≪文部科学省の全国学力テストを検証する3  文部科学省の全国学力テストを検証目次



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文部科学省の全国学力テストを検証する3  
2007.10.25 (Thu)
◆クロス集計の結果がいいように利用されそうな懸念。


文部科学省の今回の調査・報告には
ものすごく恣意的なものを感じてしまう。

今後このデータが各所でいいように利用されてしまいそうなことを懸念して、
今のうちに先手をとって確認しておきたい。


今回の文科省の調査では、テストの後に生徒への質問紙調査を行っていて、
その質問紙調査の結果と、テストの成績との関連について報告されている。

「家で学校の宿題をする児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

ほうほう、まあ納得だな。

「読書が好きな児童生徒、家や図書館で普段から読書をする児童生徒(小学校調査においては30分以上、中学校調査においては10分以上)の方が、国語の正答率が高い傾向が見られる」

なるほどなるほど。やっぱり読書は大事だなぁ。
と読んでいると、以下すごい報告のオンパレードである。

「朝食を毎日食べる児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

「学校に行く前に持ち物を確認する児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

「家の人と学校での出来事について話をする児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

「人の気持ちが分かる人間になりたいと思う児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」

「学校のきまり・規則を守っている児童生徒の方が、正答率が高い傾向が見られる」


なんか、良い子キャンペーンですかと思ってしまう(笑)


こういうデータを見るときに気をつけないといけないのは、
相関と因果を混同すべからずということ。

この報告だけを見て、
「朝食を食べれば成績が上がるんだ!」とか
「うちの子にも今日から持ち物の確認をさせないと!」とか思ってしまう人は
いろんな業者のカモになりやすい人かもしれない。


ひとつには、因果の向きが逆である可能性がある。

例えば「人の気持ちが分かる人間になりたいと思う児童生徒の方が正答率が高い」
についてであるが、
「人の気持ちが分かる人間になりたい」と思う→結果「高成績」になるのではなく、
「高成績」の(=テストで求められている正解を書くような)生徒だから、
質問紙でも、求められている気がして「人の気持ちが分かる人間になりたい」という
模範的回答をしてしまうのかもしれないということだ。




あるいは、第3の要因が隠れている可能性もある。

「持ち物を確認する」ことと「高成績」であることの背後に、
共通して「母親が恐い」という要素が隠れているかもしれない。

母親が怒るから、持ち物を確認する。
母親が怒るから、家で勉強する(結果成績が良くなる)という具合にだ。


そう考えると結局、成績を上げる要因は勉強させることだ、ということになる。


もっとも、こういった点に関しては文科省自体はちゃんと心得ていて、
「調査結果の解釈等に関する留意事項」にも、
「なお、児童生徒に対する質問紙調査の結果と教科に関する調査の結果との
クロス集計に関しては、必ずしも因果関係を示したものではないことに
留意することが必要である。」
とある。


ところで、そもそもの相関関係自体を疑ってみる余地もある。

気になるのは、このテストが実施された時間割りである。
小学生、中学生のいずれも、国語・算数(数学)のテストを実施した後に
質問紙調査を行っている。
これでは、テストの出来が質問紙の回答に影響を及ぼした可能性も否定できない。

たとえば、国数のテストがバッチリ解けた子は、
質問紙調査に自信をもって「オレは普段からちゃんとやっていたぞ」と答えるだろう。
逆にテストがあまり解けなかった子は、
「普段からちゃんとやっていなかったからだ・・・」
という気分になったかもしれない。
小学生などはなおさらだ。

可能であれば、カウンターバランスをとってもよかったのではないかと思う。


文部科学省の全国学力テストを検証目次
≪文部科学省の全国学力テストを検証する2 文部科学省の全国学力テストを検証する4≫



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edit |  21:36 |  その他雑談  | トラックバック(1) | コメント(0) | Top↑ | あとで読む このエントリーを含むはてなブックマーク
文部科学省の全国学力テストを検証する2  
2007.10.25 (Thu)
◆出題者の趣旨は設問に正しく反映されているか


出題者の趣旨は設問に正しく反映されているか。

極めて基本的な部分の話になるが、
ここをしっかり確認しないままに
基礎力がどうとか応用力がどうとか議論するのは危険である。

OECDのPISAの結果報告による、ゆとり教育による学力低下論争の際も
いったいどれだけの人が、実際のテストの設問を確認していたのだろうか。

というわけで、今回のテストから、一例として
こういうものもあるのだよというのを提示したい。


小学校の国語の問題から。
(実際の問題は「高木さんのメモ」以外縦書きになっています)

高木さんの学級では、自分がなりたい職業についてそれぞれ調べました。
次に示すのは、高木さんがケーキ屋さんにインタビューをしたときのメモの一部です。
高木さんは、分かりやすいメモにするためのくふうをしました。
どのようなくふうをしているかを説明したものとして、
ふさわしいものを次の1から5までの中から二つ選んで、
その番号を書きましょう。

 <高木さんのメモ>
○ケーキ屋さんになろうとしたきっかけ
・ケーキを作っている様子にあこがれたから。
・人を喜ばせたい。
○ケーキ屋さんになるために
・おかし作りを教えてくれる学校に通った。
○ケーキを作る喜び
・思いえがいた味になったとき。
・デザインどおりに作れたとき。
・「おいしい」と言ってもらえたとき。
○苦労していること
・新しいケーキを考え出すこと。


1 自分がケーキ屋になりたい思いを中心に書いている。
2 下調べしたことと聞いたことを合わせて書いている。
3 話してくれた要点をできるだけ短く書いている。
4 話してくれたことに対する意見や感想を書いている。
5 内容が分かるように見出しを付けて書いている。



答えは、3と5。

うん、これはいい。
1は、自分の思いは書いてないから違うし、
2は、下調べしたことは特に書いてないし、
4は、意見も感想も書いてないから違う。

で、「出題の趣旨」はというと

「話の要点を聞き取り、効率よくメモを取ることができるかどうかをみる。」


……みれてますか??


さらに「分析概要」
「正答率は、57.7%である。話を聞き取るとき、要点を押さえながらメモを取ることの理解に課題がある。

「学習指導に当たって」は、
「メモの取り方についての理解の定着を図るためには、
目的を明確にして、要点を簡潔にとらえ、
箇条書きにするなどの具体的な言語活動を充実することが大切である。」


この問題を見て、一体何人が、メモを取り方を問われていると思うのだろう。
少なくとも私は、ゆめにも思わなかった。

ということは、だ。
インタビューをしながらメモをとるときに、
「自分の意見や感想」を書くのは、ダメなメモの取り方ということになるわけだ。
「下調べしたこと」を書いておくのも、ダメなやつのやることなわけだ。
以後気をつけます。


もう一問くらい見ておこう。
同じく小学校の国語の問題から。

漢字辞典で次の漢字を調べようと思いますが、読み方も部首も分かりません。
効率よく調べるための方法として、もっともふさわしいものを
あとの1から4までの中から一つ選んで、その番号を書きましょう。

「寿」
1 部首さくいんのページを見て、「寿」の漢字を探す。
2 初めのページから、順にめくって「寿」の漢字を探す。
3 音訓さくいんのページを見て、「ア・あ」から順に「寿」の漢字を探す。
4 総画さくいんのページを見て、七画の漢字の中から、「寿」の漢字を探す。


答えは4。

「出題の趣旨」は
「調べたい事柄について、辞書を効率よく利用できるかどうかをみる。」

「分析概要」は
「○正答率は、81.4%である。読み方も部首も分からない漢字を調べるとき、
索引の中から総画索引を利用すればよいことを相当数の児童が理解している

これもちょっと疑問を感じる問題だ。
本当に「読み方も部首も分からない漢字は総画索引で調べる」と児童が理解しているなら、
「読み方も部首も分からない漢字は辞書でどうやって調べますか?」と質問されても
答えられるということになる。

しかしこの問題自体は、漢字辞典をまったく見たこともない人であっても
設問と選択肢を照らし合わせれば、ほとんど正解できてしまうような問題だ。


このように、出題者が「この問題はこういう能力を測る問題ですよ」
と言っているからといって、
必ずしも意図どおりの能力が測れているとは限らないということを
決して忘れてはいけない。


文部科学省の全国学力テストを検証目次
≪文部科学省の全国学力テストを検証する1 文部科学省の全国学力テストを検証する3≫



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edit |  20:45 |  その他雑談  | トラックバック(0) | コメント(0) | Top↑ | あとで読む このエントリーを含むはてなブックマーク
文部科学省の全国学力テストを検証する1  
2007.10.25 (Thu)
文部科学省が今年4月に、43年ぶりに行ったという
「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の結果
が(今頃になって)公表され、
各メディアで取り上げられて、それとなく盛り上がっている。

各都道府県の地域メディアは、
自分の地域の成績を全国平均と比べて上だの下だの、
順位でいうと上から何番目だの下から何番目だのと、
それとなく騒いでいる感じである。

一応この流れに乗じて、気になった部分につっこんでおきたいと思う。


◆「知識」よりも「活用」に課題?


この報告によると、
基礎的知識を問う問題の平均正答率が約70-80%だったのに対し、
知識を応用する能力をみる問題の正答率は約60-70%の正答率だったということ。

これを受けてメディアが、
OECDの国際学習到達度調査(PISA)の結果を持ち出して
「やっぱり応用力に課題が・・・」とか言っている。


・・・いやいやいや。


応用問題の成績が基礎問題の成績より下がるのは当たり前だ(笑)


実際に、小学校の算数の問題を見てみる。

小学校の算数問題の平均正答率は、
 「知識」に関する問題(A問題)が、82.1%
 「活用」に関する問題(B問題)が、63.6%
となっている。

それでは、まずA問題の中で、この平均正答率にもっとも近い問題を見てみよう。

正答率が82.5%だった問題。
つまり、典型的なA問題と考えていいだろう。

↓それがこちら。


下の図のように、16cmの長さのひもを使って、長方形や正方形を作ります。

1×7,2×6


(1) 長方形のたての長さが3cmのとき、横の長さは何cmになりますか。
答えを書きましょう。


答えは5。

式をたてるとすれば、16÷2-3 といったところか。
しかし、図をみながら、横の長さを1ずつ減らしていくだけでも
直観的に「5」と答えたくなるような問題である。


続いて、B問題で、正答率が65.1%だった問題。
平均正答率よりも少し高いが、まあ典型的なB問題と見ていいだろう。

↓それがこちら。

体育で走り高とびの学習をしています。
走り高とびの記録は、身長と50m走の記録に関係すると言われています。
次の式で計算すると、走り高とびのめあてとなる高さが何cmになるかが
わかります。

     <走り高とびのめあてとなる高さ(cm)を求める式>
  身長(cm)の半分に120を加えて、50m走の記録(秒)の10倍をひきます。
       (身長÷2)+120-(50m走の記録×10)

けんたさんとよしおさんの身長と50m走の記録は、次のとおりです。
         身長(cm) 50m走の記録(秒)
   けんた    140        8.0
   よしお     160        8.0

(1) けんたさんは、上の式を使って、自分のめあてとなる高さを計算して求めました。
  実際に走り高とびをすると、記録は115cmでした。この記録を、けんたさんの
  めあてとなる高さと比べると、どのようなことが言えますか。
   下の1から3までの中から正しいものを1つ選んで、その番号を書きましょう。

   1 記録は、めあてとなる高さとちょうど同じ。
   2 記録は、めあてとなる高さを上回っている。
   3 記録は、めあてとなる高さを下回っている。



うわぁ、なんかめんどくさぁい!

ちなみに答えは2。
式としては、140÷2+120-8.0×10=110
                    110<115 という感じ。

単純に計算だけ比較しても後者のほうが大変だし、
何より式を立てるに至るまでの道のりに差がありすぎる。

この正答率の開きは妥当なところではないだろうか。


つまり、「知識」より「活用」に課題あり、と言いたければ、
まずは問題のレベルが同程度であることを示さなければいけない
(同問題の他国での成績とか、過去の成績との比較でとか)。

「現代の子は教科書の知識を日常に応用させる能力に欠けている」
という主張自体には私も基本的に賛同できるが、
その主張を証明してみせるために、77億円も予算をかけて
この程度の話しかできないのでは、ちょっとお粗末かも・・・。


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