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算数で子どもに人生を語れ―父親が教えるツルカメ算  
2009.04.06 (Mon)
これはなかなか面白い本だった。

父親が教えるツルカメ算

本書のコンセプトは、算数を教えることを通じて、
父親が子どもの主体的な学びの姿勢を育てるべしというもの。

曰く、小学生に算数を教えるのは、お父さんにとっては
子どもとコミュニケーションの機会をもつラストチャンスかもよ?と。

筆者は特に算数・数学についての専門家ではなく、
自身が子どもの中学受験に際して算数を教えた経験から綴っている。
それゆえ見事に、一般的なお父さんでもこれさえ読めば
ある程度したり顔で教示できそうな内容に仕上がっている。


なぜ算数か。
それは、算数が単なる計算能力を試すものではなく、
発想の転換によって不可能と思われた局面を切り開くという
人間にとって最も大切な能力を育てる学科だからだという。

本書では、ツルカメ算をはじめとするいくつかの例題について
具体的な解き方が解説されているのだが、その中でも筆者は
「ありえない事態を想定する」ということを度々強調する。

例えばツルカメ算なら、もし全部ツルだったら?という
極端な仮説を立てられることが重要なのだと。

 幼児は現実的である。目の前の現実に対応するすべは知っているが、極端な場合を想定して正解に近づくといった抽象的な発想は、日常的な局面から学ぶことはできない。まさに算数でなければ学べない思考方法なのだ(中略)。
 論理的に考えるというのは、こういうことを意味している。現実に引きずられて、山勘で対応するというのは、日常の中では有効な場合もあるが、ものごとを根底から考えるということができなければ、合理的な判断ができないし、他人に対しても説得力のあるプレゼンテーションができない。
 全部ツルとか、全部カメという、ありえない事態を仮定して、頭の中でシミュレーション(思考実験)するというのが、論理的な思考の出発点なのだ。



また、個人的にすごく賛同したいのは、
算数を通じて、考えることの面白さに気づかせることによって、
子どもの自主性を伸ばすことが大事なのだという部分。

そうなんです、大事なのは自主性なんです。

 注意しなければならないのは、例えば学校の成績のようなものは、厳しい先生が鞭をもって教育すれば、何とかなるということだ。これを暗記しろと命令されて、とりあえず暗記する。我慢強い子供は、よい成績を残す。しかし、それはサーカスの動物が調教されているようなもので、鞭がなければ成果を残せないし、面白いと感じて憶えたことでなければ、結局は身につかない。

 意欲がなくても、大学に入ることは可能だ。進学指導のノウハウをもっている高校にいれば、指導に黙々と従うだけで、そこそこの大学に入ることができる。どうしてもこの大学に行きたいという強いモチベーションもなく、模擬テストの自分の偏差値と、大学のランクを見比べて、入れそうな大学を受験したという学生も少なくない。
 こういう学生は、社会に出てから苦労することになるだろうし、その前に、就職試験で排除されることになる。



本書のもうひとつのキモは、この算数をキッカケとして、
父親の人生観を子どもに語ってやりましょう、ということ。

一般に、父親の仕事は「長期戦」であるから、
努力が報われるかどうかは長い目で見なければならないということを
多くのお父さんは知っているはず。

頑張ったのに成績が上がらないと子どもが落ち込んでいるときには、
「努力というものは、すぐには成果に結びつかない。
 しかし、めげずに努力していれば、必ずいいことがある」
ということを
お父さんが自分の体験をまじえて語ってあげましょうと。

子どもに話してやりたいことはあるけれど、なかなかその機会がないという
父親は、実は多いんじゃないかと思う。
算数を教えてやるそのときが、もしかしたらラストチャンスかもしれないよと
本書は警鐘を鳴らしているのである。


というわけで、お父さん方にはもちろんのこと、
数学ではなく、「算数」の文章題の考え方について
改めて考えてみたいという方にもオススメである。

私自身もお父さんではないが、あらためて算数に興味がわいてきて、
新たに『和算式計算ドリル』を購入。
これもなかなか面白そうだ。また機会があれば紹介したい。


以上のように、そのコンセプトがすごくいいだけに、ところどころ、
感覚的にものを言っている部分が目立つのが惜しい。

小学校の時期に脳トレしないと脳が育たないとか、
その結果大学生になっても分数が扱えないとか。
ゆとり教育で円周率が3論争とかも、そろそろいいかなと……。


ちなみに今回は「シゴタノ!読書塾」への応募記事でした。
こんな感じでよいのでしょうか・・・。

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