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浦沢直樹と北野武の対談、やっぱすごかったんだ―質問力  
2009.05.25 (Mon)
コミュニケーション能力とは、「聞く力」だといわれることがある。
話す力よりも、聞く力だと。

例えば優秀なキャバクラ嬢は、「3割話して7割聞く」といわれる。
客は「オレの話で楽しませてやった!」と上機嫌で帰るのだと(出典失念!)

特に就職活動期のセミナーなんかでは、こんなような話をよく耳にした。
企業が学生に求めるのはコミュニケーション力だ、
其れすなわち、聞く力なのだ!と。

「でも、相手がひたすら話してくれないと、聞き続けることはできないよねぇ」
今は人材業界に身を置く知人がいつかそうつぶやいていたが、
それはきっと、あの時期の学生の多くが違和感を感じていた部分だったのではないか。

質問力―話し上手はここがちがう』のプロローグで、
著者齋藤孝氏は以下のように語る。

 たしかにカウンセリングでよく用いられる「聞く技法」のようなメソッドはある。たとえばよく言われるアクティブリスニング(傾聴)は、相手に対してうなずきながら、本音を聞きだしていくというやり方で・・・(中略)現実の対話シーンにはそぐわないことも多い。
 一方が他方をクライアント(患者)とみなし、その痛みを和らげようとするシチュエーションは、日常のコミュニケーションではあまりないからだ。普通のシチュエーションで相手の話にひたすら耳を傾ける人がいたら、不自然な感じがするだろう。


齋藤氏の考える「コミュニケーション力」は、もっと積極的なものである。
そして、そのコミュニケーションを深めるための積極的な行為こそが
「質問」であるというのが本書のコンセプトなのだ。

 聞くことが大切なのは事実だが、どれだけ深く聞いていたかはその次に自分が発する質問によってはかられる。


大切なのは、質の高い問いを作ることである。

「フェルマーの定理を解いた人はすごいが、
 100年以上も人々を楽しませる問いを作ったフェルマーはもっとすごい」
という例えには、納得させられてしまった。

先の例でいえば、キャバクラ嬢が7割も聞き手に徹することができるのは、
3割の中で発せられる質問の質が高いからこそだということだ。


では、質の高い質問とは何か?

この問いに対する答えを本書から2点だけとりあげるならば…
1) 具体的かつ本質的
2) 沿いつつずらす


具体的かつ本質的な質問


本質的だが具体的でない質問は、
「人生で最も大切なものは何ですか?」といった類のもの。
問いが抽象的なので答えも抽象的にならざるを得ない。

具体的だが本質的でない質問とは、専門家に専門的な話を聞かず、
「休みの日は何をしていますか?」のような些末なことを聞いてしまうもの。
スポーツ選手にプライベートなことを聞いたりするのもこの類だという。

具体的かつ本質的な質問の例として挙げられていたのは、
ジャパニーズ・ドリーマーズ―自己イノベーションのすすめ』に書かれている、
"TSUTAYA"のCCCに転職した小城武彦という人が
iモードが登場したときにiモードを使って行った市場調査の質問。

それは、「いまあなたはどこにいますか」というもの。

結果、回答者の過半数が学校か職場にいたことがわかった。
iモードとは、授業中や勤務時間中にアンケートに答えることもできる、
ウェブとは全く異なったとんでもないメディアであるとわかったのである。

「iモードの影響力を聞くのにこれ以上ふさわしい質問はなかった」と
齋藤氏も絶賛している。


沿いつつずらす


単なる質問のコツというより、コミュニケーションの秘訣そのもの。

人と対話する時、相手に沿った話をしないと乗ってこない。しかし沿っているだけでは話は発展しない。沿うことを前提とした上で、角度を付けて少しずらしていくのが私が経験的に得たコミュニケーションのコツである。


具体的な技をいくつか箇条書きで紹介。

◆沿う技
・うなずく、あいづち
・相手の言葉をオウム返しに繰り返す
・相手の言った言葉を自分の言葉で言い換える
・相手が少し前に言った言葉を、今の文脈に引っぱってくる
・相手と自分の共通点を探す

◆ずらす技
・相手の真意を確認しながら話を整理する
・具体的に言うとどういうこと?と質問する
・反対に、具体例から本質的なテーマへもっていく
・相手の話を自分の経験世界と絡める


本書で特に面白いのは、こういうテクニックを挙げた上で、
いろんな著名人の実際の対談の一部を掲載して、
この質問がすごい、ここの受け方がうまいなどと
齋藤氏が細かく解説しているところである。

これに触発されて、自分でも、「質問力」という視点を持って、
実際の対談を分析してみたくなった。



じゃん。これ。

spirits02

浦沢直樹氏と北野武氏の対談掲載!
これ目当てに購入した秘蔵のスピリッツ(2005年11月)
時は、浦沢氏の『20世紀少年』と、北野氏の『TAKESHIS'』である。

当時はぼけーっと読んでたけど、今回改めて読み返してみて、
この2人の巨匠による対談のレベルの高さがよくわかった。

いくらかピックアップしてみたい。

北野 ペースというか、話の切りかえが同じだよね、この漫画、『20世紀少年』とおいらの映画。
浦沢 やっぱりビリビリきますよね。
北野 引っ張らないんだよ。展開ピュッと変わるじゃない。
浦沢 そうですね。
北野 この先どうなるんだろうというコマ、アップの顔で「………」が続いて、次のシーンにシュッと変わるでしょう。
浦沢 今回、武さんの映画を見て、これ、俺はわかるんだけど、お客さんはどうとるんだろうなあ、みたいなシーンが多くて。


対談はいきなりこんな会話から始まり、
もう少し2人の作品の類似点についてのやりとりが続く。
ずばり、「共通点を探す」という沿う技である。

その後、浦沢氏が北野氏の正面画に昔から憧れているという話になる。

浦沢 鼻の穴描いちゃいけないみたいなのがあったんですよ。かわいい女の子キャラ出している時に、鼻の穴があったらまずいだろうみたいな時代があって。どうやったら正面画が描けるか、八〇年代ぐらいに結構みんな格闘していたんですね。あの武さんの正面画は……小津手法とは関係ないんですか。
北野 実は恥ずかしい話で、ヨーロッパに行って初めて小津さんって聞いたんだよ。
浦沢 知らなかった?(笑)
北野 恥ずかしながら。(中略)日本へ帰って急いで小津安二郎全集買って……小津さんのカメラの位置よりは俺は高いんだよね。小津さんはちょっと下からこう。


齋藤孝氏も、相手の言ったことに対して、「それは別のこれと似ていますか?」
と質問するのは、質問の王道である
といっている。

浦沢氏も、北野氏の言ったことではないが、
正面画について「小津手法とは関係ないんですか」と質問し、
なんと北野氏が小津安二郎を知らなかったという事実が明らかになる。

これにより浦沢氏は、ある直感を得た。

浦沢 武さんって、初めて映画を撮ろうという気持ちになった時というか…たまたま巻き込まれちゃったんですか。
北野 監督が深作欣二さんで、俺が主役で『その男、凶暴につき』をやる予定だったんだけど……(中略)「俺が監督やるの?」「そう」って、「じゃあ、やってもいいよ。でも、台本はあの台本やだよ? 自分がやるなら台本も変えさせて」ってあれを書いて、ただやっただけなんだけど。
浦沢 映画監督になろうという願望もなかったし、ということでしょう。
北野 うん。やろうと思ったのは野球選手くらい。(中略)
浦沢 『その男』の時から既に、刑事が歩いて歩いて歩いて、あのシーンって、明らかにワンテンポ長いんですよ。
北野 うん、長い。
浦沢 あれは映画批評として出てきているのかってずっと気になってたんです。それとも自分の間で撮ったらこうなっちゃったのか。
北野 うん。漫才のネタで映画批評ってあるわけ。映画とかドラマがおかしいとこってね、殺人事件がありましたってテレビとかで流れるじゃない、その時にラーメン屋のオヤジで「今どき物騒なあれだね。ねえ、お客さん」と言うと、お客が犯人だった。誰が考えてもこいつだろう。こんなに売れている役者がただラーメン食ってるかって、ホントは事件に関係あるのに決まってるよ!っていうような悪口を漫才でやってたの。なんで最後に必ず、女は断崖絶壁に立つんだ!?とか。
浦沢 お約束ね。
北野 そういうネタをやっていたので、刑事も電話に出たらいきなり情報が入る、そんな簡単にはいかないよなという。
浦沢 ここからここまでこれだけ時間かけてやらなきゃいけない。
北野 それで、撮ることになって、ただ、ひたすら歩いてるところを撮って。


北野武はもともと映画監督になろうという強い意志があったのではないんじゃないか。
そう思った浦沢氏は「たまたま巻き込まれちゃったんですか」と、
自分の予想をストレートにぶつける。
そしてその考えは正鵠を得たものであった。

その後の、『その男』で刑事が歩くシーンが明らかに長いという指摘と、
それが映画批評として作られたものなのでは?という質問。
これはまさに、具体的かつ本質的な質問、ではないか。

特定の映画のワンシーンを問題にした質問で、
北野氏の映画作りに対する根本的な姿勢について聞き出すことに成功している。

では、なぜ浦沢氏はここまでその点にこだわった質問をしてきたか。
それは次のくだりで明らかになる。

浦沢 やっぱりでもあれなんだ。そうやってたまたま映画にハマってしまって、今の感じになってしまったと。こんなはずじゃなかったとは思わないんですか?
北野 いや、もう反省ばかりだね。なんにもいいことなかったって。よく言われるんだけどさ、「たけしさん、幸せでしょう」「なんで?」「漫才から映画監督までいって、賞もらって、幸せでしょう」。幸せなわけねえじゃん、バカヤロウって。
浦沢 やりたいわけじゃないって。
北野 やりたくてやったわけじゃねえんだもんっていう。いまだに野球の選手、どんなに新人でも、さんづけだもん。(中略)
浦沢 僕も漫画を積極的にやりたかったわけじゃないんですよ。
北野 あら。
浦沢 小学館に新入社員の会社訪問で行った時に、たまたまいっぱい描いていた漫画があるので、それも一緒に持っていったら、そっちのほうがよくて、入社試験は落ちて、漫画やらないかって言われて。で、二十年以上ですよ。
北野 その距離感がいいんだよね。


浦沢氏自身が、もともと望んで漫画家になったわけではなかった。
そして、同じ雰囲気を北野氏に感じ、巧みな質問によって
北野氏からその話を引き出し、2人の新たな共通点を共有したのである。
お見事!

一旦この話題は終わるが、ここで共有した共通点が後半で再び活きてくる。

浦沢 僕は見ていて思ったんですけど、売れるのと売れないのは紙一重で、ホントにもうギリギリの線で今こうしているけどっていう感情が、武さんの中にあるんじゃないかなと。まかり間違えば、俺、こうだし……その感じがね、ずっと武さんの映画に一貫している感じがするんですね。(中略)
北野 運がいいとしか考えられない。なんで俺がこんな世界を選んで生きてきたのか全然わかんない。全然努力してるわけでもないし。
浦沢 僕も、何で今こうしているのかよくわからない時があるんですよ。
北野 やっぱり客観性があるからいいんじゃないかね。
浦沢 武さん、以前、何かのインタビューで、子供の時にみんながわーっとなると、はたから冷めた目で見てたって……僕もそうだったんです。わーっという騒ぎの中に入れなかったんです。
北野 だから、その当時のわーっと騒いでた子は意外にあんまり覚えてないんだよね。



北野氏が『TAKESHIS'』の具体的な構成について話していたところで、
浦沢氏が、「見ていて思ったんですけど…」と、本質的な質問へつなぐ。
これはまさしく、ずらす技、「具体例から本質的なテーマへ」である。

そして、2人が自分の境遇をどこか距離感をもって見つめていることがある
という共通認識を確認した上で、
北野氏が「やっぱり客観性があるからいいんじゃないかね」と。
映画監督や漫画家でありながら、どこかその業界に距離感をもっていることが
作品に良い影響をもたらしているという、先程の話につなげているのである。


きりがないのでこのへんにしておくが、
対話の場面で話がふくらむかどうかは、ひとえに「質問力」に
かかっているという雰囲気は感じとってもらえたのではないだろうか。

齋藤氏は、いちばん大切なのは「質問力」というコンセプトを
いつも意識する習慣をつけることだといっている。

まずは質問の質を高める意識を待つことが、
コミュニケーションの質を高めるためのスタート地点だといえそうだ。


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応募するつもりで書いてたが、微妙に間に合わなかった・・・。


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