インターネット上に散らばる雑文の中にも、
声に出して読みたくなるような素敵な文章があるはずだと、
何気に1年間あたためていた企画。
選考基準は、ざっくりいうと以下のとおり。
・日本語で書かれたもの
・文章表現にどこかしら魅力を感じるもの
・音読することでより味わい深くなるもの
・テレビ、映画や書籍からの転載でないもの
あとは私の主観によります。
2009年の1月~12月の、各月に公表されたものから1点ずつ
秀逸なテキストを選出しました。
ではさっそく!
1月:1月のスカート
今年初めに「人力検索はてな」で盛り上がりをみせた、
【降臨賞】空から女の子が降ってくるオリジナルの創作小説・漫画を募集します。
に対するhatooonさんの作品。
1月のスカート - hatooons on WEB
まったくつまんないことでつまんなくなるのねってあの子がいますぐ空から降ってきたらいいのに。ぼくは彼女に言うんだ。「信じられない!どうしてそんなとこからくるわけ?」そしたらきみはこう答える。「どうしてかって?いまここにあたしがいるのにそんなこと聞くなんて、つまんないのね!」
hatooonさんが日常を綴る文章には、詩的な味わいがある。
リズムの心地よさは音読向きでもある。
なにげなくさらさらっと書く文章がどれも素敵なのがすごい。
句読点の使い方も見習いたいところだ。
2月:中川前財務相のバチカン警報騒ぎに「ばかもーん!そいつがルパンだ!」
今となっては不謹慎なネタになってしまった・・・。
中川前財務相のバチカン警報騒ぎに「ばかもーん!そいつがルパンだ!」 : bogusnews
中川昭一前財務相がローマで開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)後に訪れたバチカン博物館で、展示されていたお宝に柵を乗り越えて触れ警報を鳴らしていた件で、来日中の国際刑事警察機構(インターポール)国際捜査官が
「指名手配中の窃盗犯“ルパン三世”のしわざ」
とする見方を明らかにした。
このテキストを今とりあげていいものかどうか迷ったが、
中川昭一氏のこの一連の事件を改めて考える意味でも。
国民みんなに、こうしてネタにして笑いとばせるくらいの大らかさがあれば
もしかしたらまた違った結末もあったんじゃなかろうかと、
そんなことを考えてみたくもなる。
そして純粋にテキストのクオリティとしても、
封印してしまうにはあまりに惜しい出来。
実にうまくまとまっている。
3月:貴婦人から学んだこと
つかみのお手本のような文章。
貴婦人から学んだこと - 自家撞着
松屋で豚定を食って、某シオールで勉強をしていたところ不意に現れたおばさま方数名がたがけたたましく騒ぎ立てるものだから、「Hey, bitches!!」と奇声を上げながら『LONDON CALLING』のジャケットばりにエレキギターをやつらの頭にぶち込もうと思ったのだけど、そういえばぼくは奇声を上げる元気もエレキギターも持っていなかったので、とりあえずiPodで「Fuck!」とか「Bitch!」とか姦しく騒ぎ立てる音楽をなんぞを聴いてみたりして(略)
書き出しの1文のパワーが圧倒的で、
後半の真面目な考察をそのままの勢いで読ませてしまう。
まったくもって、お見事!
頭に浮かぶ言葉をしゃべるような勢いそのままに書かれた文章という感じ。
それゆえ、読み手も声に出して唱えてみることで、
その筆者の思考過程を追体験できる、といったら大袈裟だろうか。
それにしても、改行や段落分けをほとんど考えずに書かれた文章なのに
これだけ抵抗なく読めてしまうのはすごい。
4月:うちの母ちゃん凄いぞ
2ちゃんねるまとめサイトより、長編をひとつ。
うちの母ちゃん凄いぞ 無題のドキュメント
ある日母ちゃんに、何でそこまで頑張るの?と聞いたら、
母ちゃんは「あんたも子供を産めばわかるよ」とだけ言ってた。
例えばそこに水があって、ここは砂漠で、この水を飲まなきゃ死んでしまう。
でも水はひとつしかない。
そんな時、母ちゃんという生き物は迷わず子供へその水を差しだすんだと。
男脳、女脳とかあるけど、母ちゃん脳という物があるんだろうなと思う。
母ちゃんは男でも女でもなく、母ちゃん、という生き物だと思うんだ。
2ちゃんねるの一人称語りは、強烈な親近感誘発装置だ。
「クズだな」「ぶん殴りてー」
無遠慮な言葉は暴力にもなりうるが、
ここでは聞き手の適切な合いの手として立派に成立している。
匿名のやりとりの光の面と陰の面を併せ持つこの掲示板には
言語コミュニケーションにおける諸問題の解決のヒントが
隠されている気がする。
※5部作。けっこう長いです。
5月:ラブホテルをつくろうと母は言った
どんな下世話な話題も文学的に書き綴ってみせる天才
フミコ・フミオ先生の、声に出して何度も咀嚼したい名文。
2009-05-28 - Everything You’ve Ever Dreamed
お疲れさま。元気だせよ。頑張ろうぜ。葬儀を終えて父の骨壺と家に帰ってきたとき僕と弟は母にかける言葉を見つけることがどうしても出来なかった。言葉はまさしく神で、いろいろなことを可能にするけれど、向こうからはやってこない意地悪な存在でもある。
タイトルは完全な不意打ち。
いつも笑い話やしょーもない下ネタばかり書いておられる氏が
不意にみせる、繊細な言葉で紡ぐ洗練された文章は、
ハードコアなバンドがアルバムの最後に潜ませるバラードのように
独特な輝きを放つ逸品である。
後日談である「花参り」もあわせて読みたい。
6月:ラーメンが松本人志
はてな匿名ダイアリーより。詠み人知らず。
ラーメンが松本人志
ラーメンなんて、別に美味いんだ。お笑いなんて別に面白いのと一緒で。ぼけーっと食って、ふひーっと爪楊枝などつかって、ぷかーっとタバコでも吸って仕事に戻ればいい。なのに、ぼくはいつしかラーメンを分析している。プロの調理人の作品に対して、批評をぶっている。
まずタイトルが秀逸。
ラーメンが好きで、松本人志が好きな人であれば、
どんなことが書いてあるのか気になって仕方ないであろう。
日本語として解釈の多様性を残していて、
英訳するのが難しい言い回しである。
また、深読みすれば、「語られる」べきお笑いの代表格としての
「ラーメンズ」の存在が示唆されているのではないかと、
そんな勘ぐりもできる。
以上、2009年1月から6月までのご紹介でした。
下半期分も、できれば年が変わる前に発表したい・・・。
あ、あざっっっす!!