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自尊教育の柱となり得るか―[書評]ポートフォリオで「できる自分」になる  
2010.02.01 (Mon)
ポートフォリオで「できる自分」になる』を読了。


一般的に「ポートフォリオ」といえば、
金融用語で分散投資先の組み合わせを意味する場合が多いが、
教育における「ポートフォリオ」は、「作品集」のような意味合いだ。

本書の著者はこのポートフォリオを用いて、
子供の「自己肯定感」を育む試みを続けてこられた方だ。

子供の自己肯定感の低さが危惧されている現状については、
ここで改めて説明する必要もないだろう。
東京都でも、試験的に小学校への「自尊教育」の導入をはじめている。


さて本書であるが、
1章2章は、ポートフォリオはこんなに素晴らしいんですっていうことが
いくつかの事例を交えつつひたすら説明されるので、
ポートフォリオが素晴らしいということをとりあえず理解できた人は
98ページから読めばよろしい。

そこからはポートフォリオの具体的な作り方になる。
簡単に紹介すると、以下のようなものである。


用意するもの


●ポケット式のクリアファイル
100円ショップでA4のクリアファイルを買ってくる。
薄いものなら20ポケット、厚いものは40ポケットくらいのものがある。

●材料
ファイルの中に入れたいもの。思い出のものとか。
大切な手紙、写真、パンフレット、チケットの半券など。

●A4のコピー用紙
いろいろ書いたり貼ったりする台紙。

●付箋
いろいろ書いたりする

●色ペン
いろいろ書いたりする


作成手順


・ポートフォリオに名前をつけ、表紙を自由にデザインする
名前はたとえば「夢ひっぱりだこ」とか、そんなの。
表紙のデザインのどこかに、1冊目という意味の「1」を入れる。
作った表紙は1枚目のポケットに入れる。

・2枚目(1枚目の裏)は「目標」
「目標」は、書くことが決まっている。
「自分のことを大好きになろう」と書く。
応用編(後述)では、その下に
「家族や友人のことも大好きになろう」と書く。

・3枚目には、自分の写真&夢や願いごと
台紙に自分の写真を貼り、その下に、夢や願いごとを書く。
「英語が話せるようになりたい」
「○ヶ月で○キロやせたい」など、達成したいことを箇条書きで。

・4枚目は、自分の長所
「時間を守る」、「料理が好き」など、思いつくだけ箇条書きで。

・5枚目からは「材料」を入れていく
最初に集めたものだけでなく、以後、入れたいものができる度に
上のほうに日付を書いて、新しいポケットにどんどん入れていく。

・定期的に自己を振り返る
3ヶ月~半年に1度くらいの間隔で、定期的に自分を振り返る。
そして、達成したこと、できるようになったことがあれば書く。


応用編


基本は上のように1人での作業になるが、応用編として、
教室やイベントなどで取り組む場合には他者とのワークを入れるらしい。
他の人の長所を見つけてあげる、ポートフォリオを見せ合って会話する、
他の人に手紙を書いてあげる、など。

それで、一人でやる場合でもぜひ他者を巻き込みましょう、
ということが書いてあった。
詳しくは本書参照のこと。


ポートフォリオの何が有効であるのか


さて、このようなポートフォリオが仮に、著者のいうように
自尊教育に有効な成果をあげられるツールなのだとしたら、
その理由というか、どういう要素が有効に作用しているのだろうか。


以下は私の考察になるが、
ひとつには、自分の成長が「見える化」されるというところだろう。

子供の成長は、とにかく早い。
身体的にも、精神的にもである。
大人から見ているとそれはよくわかるのだが、
意外に、当人はなかなかそれに気がつけないものである。

だから、ただ自分の成長を目に見える形にしてやるだけでも
わりと「すげぇな自分!」って思えるものなのかもしれない。

先月は全然なじめていなかったクラスに、今は仲良しがたくさんいる。
去年は水が死ぬほど怖かったのに、今では25メートルも泳げる。
そういう成長の記録が自己肯定感につながるのは、納得できる気がする。


同様に、褒められるポイントが「見える化」されるのも重要なポイントだ。

たった今、子供はなかなか自分の成長に「気がつけない」と書いたが、
厳密には「自分の成長のすごさを自覚できない」に近いか。

つまり、どこか成長して当たり前だと思っている部分がある。
身長は伸びて当たり前。
知識は増えていって当たり前だと。
成長の機会が多すぎて、逆にそのすごさに気がつけないのである。

だけど、同じ学年の子供から見ても、
「おおっ、こいつすげえな」と思える成長がある。
去年までは全然足が速いキャラじゃなかったのに・・・とか、
なんか急に字がうまくなったな・・・とか。

そういう、当人が見落としがちな成長について、
周りの人から指摘してもらえる機会が増えるという効果はあるだろう。
そういう意味でも、やはり1人で取り組むよりも
他の人と相互作用のある中で取り組んだほうが効果が大きいと思われる。


大人こそポートフォリオが有効かも


本書にも、子供だけでなく大人でも、という話があるが、
成長の可視化という点からいって、
子供以上に大人にこそ効果があがるツールなのではないかという気がする。

というのは、大人こそ自分の成長に気づきづらいものだからだ。

目に見える身体的な発達も止まり、
日常生活のほとんどのことは他人の手助けなくこなせるようになり、
経済的にも、ちょっとしたものなら「大人買い」できるようになった。

ここから先の成長は、意識して見ようとしないと見えないものが多い。
プレゼン能力が上達したことを実感するためには、
上手にプレゼンできなくて苦しんでいるときの記録が必要だ。


また別の使い方として、バリバリ仕事ができて尊敬される上司が、
苦しんでいる新人に昔のポートフォリオを見せて、
「オレだってこうして、ひとつずつできるようになっていったんだ」
と言って元気づけるとか。

当たり前の事実も、記録として示されると重みが違いそうだ。



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edit |  23:09 |  その他雑談  | トラックバック(0) | コメント(0) | Top↑ | あとで読む このエントリーを含むはてなブックマーク
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