出題者の趣旨は設問に正しく反映されているか。
極めて基本的な部分の話になるが、
ここをしっかり確認しないままに
基礎力がどうとか応用力がどうとか議論するのは危険である。
OECDのPISAの結果報告による、ゆとり教育による学力低下論争の際も
いったいどれだけの人が、実際のテストの設問を確認していたのだろうか。
というわけで、今回のテストから、一例として
こういうものもあるのだよというのを提示したい。
小学校の国語の問題から。
(実際の問題は「高木さんのメモ」以外縦書きになっています)
高木さんの学級では、自分がなりたい職業についてそれぞれ調べました。
次に示すのは、高木さんがケーキ屋さんにインタビューをしたときのメモの一部です。
高木さんは、分かりやすいメモにするためのくふうをしました。
どのようなくふうをしているかを説明したものとして、
ふさわしいものを次の1から5までの中から二つ選んで、
その番号を書きましょう。
<高木さんのメモ>
○ケーキ屋さんになろうとしたきっかけ
・ケーキを作っている様子にあこがれたから。
・人を喜ばせたい。
○ケーキ屋さんになるために
・おかし作りを教えてくれる学校に通った。
○ケーキを作る喜び
・思いえがいた味になったとき。
・デザインどおりに作れたとき。
・「おいしい」と言ってもらえたとき。
○苦労していること
・新しいケーキを考え出すこと。
1 自分がケーキ屋になりたい思いを中心に書いている。
2 下調べしたことと聞いたことを合わせて書いている。
3 話してくれた要点をできるだけ短く書いている。
4 話してくれたことに対する意見や感想を書いている。
5 内容が分かるように見出しを付けて書いている。
答えは、3と5。
うん、これはいい。
1は、自分の思いは書いてないから違うし、
2は、下調べしたことは特に書いてないし、
4は、意見も感想も書いてないから違う。
で、「出題の趣旨」はというと
「話の要点を聞き取り、効率よくメモを取ることができるかどうかをみる。」
……みれてますか??
さらに「分析概要」
「正答率は、57.7%である。話を聞き取るとき、要点を押さえながらメモを取ることの理解に課題がある。」
「学習指導に当たって」は、
「メモの取り方についての理解の定着を図るためには、
目的を明確にして、要点を簡潔にとらえ、
箇条書きにするなどの具体的な言語活動を充実することが大切である。」
この問題を見て、一体何人が、メモを取り方を問われていると思うのだろう。
少なくとも私は、ゆめにも思わなかった。
ということは、だ。
インタビューをしながらメモをとるときに、
「自分の意見や感想」を書くのは、ダメなメモの取り方ということになるわけだ。
「下調べしたこと」を書いておくのも、ダメなやつのやることなわけだ。
以後気をつけます。
もう一問くらい見ておこう。
同じく小学校の国語の問題から。
漢字辞典で次の漢字を調べようと思いますが、読み方も部首も分かりません。
効率よく調べるための方法として、もっともふさわしいものを
あとの1から4までの中から一つ選んで、その番号を書きましょう。
「寿」
1 部首さくいんのページを見て、「寿」の漢字を探す。
2 初めのページから、順にめくって「寿」の漢字を探す。
3 音訓さくいんのページを見て、「ア・あ」から順に「寿」の漢字を探す。
4 総画さくいんのページを見て、七画の漢字の中から、「寿」の漢字を探す。
答えは4。
「出題の趣旨」は
「調べたい事柄について、辞書を効率よく利用できるかどうかをみる。」
「分析概要」は
「○正答率は、81.4%である。読み方も部首も分からない漢字を調べるとき、
索引の中から総画索引を利用すればよいことを相当数の児童が理解している」
これもちょっと疑問を感じる問題だ。
本当に「読み方も部首も分からない漢字は総画索引で調べる」と児童が理解しているなら、
「読み方も部首も分からない漢字は辞書でどうやって調べますか?」と質問されても
答えられるということになる。
しかしこの問題自体は、漢字辞典をまったく見たこともない人であっても
設問と選択肢を照らし合わせれば、ほとんど正解できてしまうような問題だ。
このように、出題者が「この問題はこういう能力を測る問題ですよ」
と言っているからといって、
必ずしも意図どおりの能力が測れているとは限らないということを
決して忘れてはいけない。
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